これは、私が生まれて晩白柚を購入した時の話です。
1993年の12月末、地元の大手青果店で、初めて出会った晩白柚は、
ディスプレイの最上段に、3つ並んで、小玉西瓜用の座布団(?)に鎮座してました。
それは、黄色くて大きな、今まで見たこともない美しい果物で、ひらがなで『ばんぺいゆ』と書かれた札がついていました。
ばんぺいゆ?何これ?日本語なの?…ってゆ〜か、これって国産なの!?
それは、私がそれまで知っていた柑橘類とは、全く雰囲気が違っていて、私はその場を立ち去る事ができなくなってしまいました。
で、これは是が非でも自宅に連れ帰らねばならない、と決意して、店員さんに『ばんぺいゆ下さい』と言ったのですが…

何故だか、素直に売ってくれないのです。

『大きいだけで酸っぱくてマズイんだよ』
『ワタばっかりで食べるトコ無いんだよ』
『中はグレープフルーツと同じなんだよ』
『同じ値段で、なんぼでも、ほかに美味いもの買えるんだから…』
『食べるより、お飾りに使うものなんだよ』

確かに、高かった。1玉4,000円(税別)
だけど…お客相手にそこまで言う事ないんじゃない!?(怒)
私が生まれて初めて出会った、見ているだけで嬉しくなるような美しい果物。
それなのに、おそらく果物のプロである従業員さんによる、ボロクソな評価。
晩白柚って…マジでマズイのか?
看板商品だから売るな、とか店長に言われていたのでしょうか。
それとも、彼女は、過去、晩白柚に関するクレームで、不快な目に遭った事でもあるのでしょうか。
もう、意地でも購入せざるを得ない、好奇心全開、売り渋る店員さんからなんとか1玉を獲得(?)し、両手で抱えて帰途につきました。
ソイツを抱えて歩くのが、訳も無く嬉しかったのを覚えています。

その晩白柚は、正月からしばらく我が家に滞在し、お客さんの人気者になりました。
最後まで本物のかんきつだと信じてくれない人もいたし、ご近所から見物客まで現れました。
なぜだか、ばんぺいゆ見て、子供が大笑いするんですよ。
面白いかなぁ?
幼児って、黄色いものが大好きだから、それで嬉しくて笑うのかな?

やがて、皮が痛んできたので、解体ショー(?)と試食会を行いました。
白色系果肉で、房数も少なかったし、それは間違いなく晩白柚だと思うのですが、
確かに、店の人が言ったように、皮がやたらと厚く、酸味も強く、食味はいまひとつでした。
あんまり美味しくはなかったけれど、その時は、皆さん、
『これだけたくさんの人が楽しんで、食べられたのだから、話題性だけで十分だよね』
という、そこそこ満足の感想で。

しかし、それ以来、私の中にはひとつの探究心が根を張ってしまったのです。
『晩白柚ってマズイのか?世の中には、どこかに必ず、美味しい晩白柚があるはずだ。』

あまりに紆余曲折が長いんで、続きは圧縮しますが、つまり、それ以来、晩白柚に取り憑かれてるんです。
翌年の冬には、ホーチミン(ベトナム)まで行き、山積みのザボン(多分ポメロですね)を目撃、大感激の挙句、”病気”に拍車が掛かる事に。
お歳暮用に置かれてる在庫が見たくて、新宿の百貨店めぐりを敢行した事もありますし、八百屋で売ってれば、素通りは不可能です。
ゆうパックの直販も利用したけど、これは品質に物凄くばらつきがあって、今年良かったから来年も美味いなんて事は、全く期待出来ません。
(共同出荷と同じ理屈ですね、選果場経由じゃ仕方が無いですが。)
そんなこんなで遠回りしながら、母が美味いと言ってくれる晩白柚に会えるまで、なんと10年もかかってしまった訳なのです。

晩白柚、本当に好きなんですよ。
食べるのはもちろんですが、存在自体が好きなんです。

余談ですけど、今期の私の”最悪ばんぺいゆ大賞”は、〇×九州青果物集配センターによる、小玉(6個/1箱 小売価格\600/1個)です。
これは…もう、ぶっ倒れそうに酸っぱい。
ヘタや果皮の状態からすると、木から下ろして、相当の日数は経過している様子なのに、皮に刃物を入れてるだけで、すでに汗が流れるくらい強烈に酸っぱい香りが…。
これは、仙台卸売市場に流れてせりに掛けられたもので、サイズはM規格(径16cm)程度なのに、1.2sしかないという悲しいシロモノ。
典型的な、若採りなのでしょうが、他にせり落とした店では、1個\1200で売られているそうな。
馴染みの八百屋さんなので、つきあいで1個買ったのですが、汗流しながら食いながら思った事は…
これで、『晩白柚ってマズイ』と思う人間が発生するのを、少なくとも1件、カラダ張って阻止したんだなぁ、と。
ある意味において、いい汗かいたぜ。(←お馬鹿です)

まぁ、このように、くだらない話を延々と人様に送りつける私って…
毎度、お時間とらせてしまって申し訳ない。
全くロクでないヤツに捕まってしまったものだと、溜め息と一緒にゴミ箱に放り込んで下さいな。


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